ガートルード・スタイン/落石八月月・文体

 今、ウチでは、映画「月の出をまって」(ジル・ゴッドミロー/1987)を見てから、ちょっとしたガートルード・スタインブーム。パリで長い時間を過ごした作家ガートルード・スタインは、ピカソマチスヘミングウェイなどを支援した人で、彼女とその秘書であり恋人のアリス・B・トクラスとの生活を描いた映画。なんとなく相米慎二の影響がみえ(誤解か?)……そのあたりが好きな映画。
 

翻訳はいくつか出ていて、注目したいのは『みんなの自伝』(マガジンハウス)という本。訳しているのは落石八月月。おちいしおーがすとむーんと読むんですが、この人の日本語に注目したい。
 

「まあとにかく出かけようとみんなで下まで来たら、年配の黒人の男の人が近づいてきて、ガートルード・スタインさん、と言うので、はい、とわたし。彼はわたしは ナニナニですが(名前は忘れた)、聖イグネイシャスを歌ったマシューズさんの最初の音楽の教師です、それでご挨拶したかったんですと言ったのでわたしは感激しました。それでマックス・ホワイトとリンドリー・ヘベルとアリス・トクラスとの四人で五番街を歩いていたら、その日わたしの本「肖像と祈り」が出たばかりで、表紙はカール・ヴァン・ヴェクテンが撮ったわたしの写真で、五番街を歩いていたら若い黒人の女性が微笑んでゆっくり指差すほうを見たら本屋のウィンドウに本があって、彼女は微笑んだまま歩いていきました」


とてもいい文章に出会えた。こんな調子で、たとえば今年の7月、海の家ブルームーンでの時間なんかを描写したいものですね。