これから海の家について、日々思ったことや、それに関する行動、取材メモを書いていくわけだが、私が書く「ニュースタイル海の家」とは何か。定義してみる。
●ニュースタイル海の家の定義
1、海水浴をするために海に出ていく施設ではなく、
そこに集い海辺という環境を楽しむスペース。
2、セルフビルドで建てられている。
3、さまざまな文化ムーブメントが交錯しているスペースである。
店内に入って感じるのは東京の中目黒などにある倉庫やアパートをリノベーションしたカフェなどと同質の雰囲気。店員や客の脱力した身振りがあり、コミュニケーションの道具フライヤーのデザインのゆるさなどが目につく。それが窓の外を
東横線が走り抜けるカフェよりは、たゆたう海の力によって、よりゆる〜くなっているという印象だろうか。
1960年代のあの大群衆が集まった海水浴場の時代は遥かに過ぎ去った90年代中期、すでに衰退していた海の家は、カフェを経験した者たちによって再発見された(葉山・森戸海岸のオアシスは81年にオープン、当初はカウンタカルチャー色があまりにも強く、人気が出てきたのは90年代中期、葉山・一色海岸の
ブルームーンの営業開始は97年)。
どのように発見されたのか。海水浴のための施設ではなく、海辺という環境で友人や恋人とゆったりと楽しむためのスペースとしてである。それを示すように更衣室やシャワーの存在感は薄くなり、ステージ、バーカウンターなどが前面に出ている。
そして、これらのスペースはセルフビルドによってできている。
また、こうした海の家では、沖縄音楽から
ダンスホールレゲエなどさまざまなジャンルの音楽のライブが行われる。それを聞きにくる人々も、さまざまな文化表現をしている(別にアーティストということではない。それぞれの身振りや仕事や暮らし振りをもっていること。前の海の家を利用する人々と違うのは、いいにつけ悪いにつけライフスタイルへの自意識が強いということだ)。このことが示すように、そこではさまざまな文化ムーブメントの交錯が見える。
(これらの文章は『Title』(
文藝春秋社)2003年9月号で発表したものを一部修正している)