植田実の編集のリズムを空間で感じる

 

 昨日、たまたま寄った三田の日本建築学会のギャラリーで「『都市住宅』再読・植田実の編集現場」という展覧会が行われていた(1/19まで 10時〜19時)。
日本建築学
http://www.aij.or.jp/aijhomej.htm

 
 植田さんが建築学会賞を受賞した記念で行われていた、そんなに大きくない展覧会だ。しかし、私にはとても楽しめたものだった。


 植田氏は1968年から1976年まで「都市住宅」(鹿島出版会)という雑誌で編集長をしていた方だ。80年〜90年代は「住まいの図書館出版局」で建築空間に関する魅力的な単行本のシリーズを出す仕事をしてきた。


 植田氏は、「雑誌で都市空間に起こっている現象を記録する」、「単行本でも雑誌的ドキュメント性をもたせる」という独自の方法をもっている編集者で、私は昔から好きだった。


 デザイン・サーヴェイを含めて建築空間での現象を記録し、平面媒体に定着することはとても難しい行為だ。建築のことを扱った雑誌や本で、「これはおもしろい!」と思ったものは(自分も関わったものも含めて)なかなかない。植田氏が編集しているものも「これはおもしろい!」とはいえないが、この作り方の方向の向こうには、もっと確実な建築空間の記述の可能性があるのではないかと思わせるところがあり、これは建築空間関係編集者としてやはり希有な例なのだ。


 たぶん雑誌「建築雑誌」(日本建築学会)だったと思うが、「自分の仕事を振り返る」といったような特集の中で、植田氏が新幹線の窓から気になっていた建物の写真を、数年の時間の幅の中で、撮影していたということを書いていたものがあった。その記事には実際の写真が何枚か掲載されていて、その建築空間の変化の記録とそれについての感想が書かれていた。


 ここには植田さんの仕事の特徴が現れていた。植田さんが新幹線に乗っているからという単純な理由なんだが、「記録する主体の運動性」、それから駅弁でも食べた後に写真をとっているような「日常性」、記録した写真と文字をとにかく並べてしまう「列挙する表現性」など、植田さんの仕事の特質をその小さな記事から感じたのだ。
(この記事は、後で探してみますね……)


 会場デザインはアトリエ・ワン塚本由晴+貝島桃代)が、やっていて、「記録する主体の運動性」がもつリズム感をよく表していると思う。


 そういえば「都市住宅」には、コラージュされた音が入っている音楽みたいなところがある。「受験生ブルース」の英語講座のテーマ曲が入ってくる瞬間、平和運動に走っていた頃のラスカルズの大統領の声が入っているようなポップス、三上寛とセッションしていた頃の大友良英の直接的ドキュメント音がコラージュされていく瞬間などが、私はものすごく好きなんだが、「都市住宅」にもそんな素敵な瞬間がある。


 ハウスに典型的に現れていた、ポピュラー音楽の中にコラージュされた音を入れる時に、ある一定のリズムをキープすることの大切さ。都市現象を記録するには、雑誌や単行本のシリーズがもつリズム感もものすごく大切なのだと思う。植田さんには、そのリズム感があって、それをアトリエ・ワンは雑誌それ自体を規則的に並べること、本のページのコピーをビートをきかせるように壁に貼り込むことで表現していた。


 会場におられる植田実さんも、ディスプレイされている雑誌の迷路の中で、うろうろしている「街の人」としていて、いい感じだった。ほんの少しだけ、その迷路のはじっこでお話をさせていただいた。


 それから茅場町にあるタグチファインアートで「チェコの前衛美術2−ヤロスラフ・レスレルの写真」展を見てきた。(2/7まで)
http://www.taguchifineart.com

 20〜30年代のチェコを含めた中央ヨーロッパの文化動向はやはりおもしろいですね。この動向が気になっている人は、チェコものはなかなか入ってこないので、この展覧会は見にいった方がよいかもしれません。


 話は少し変わるが、その時代のチェコで放浪する人々の動きがあり、そこから派生した小屋をテーマにしたチェコの現代のカメラマンがいる。そのことについては、また他の機会に書くことにしよう。