サーファー宅急便

鹿島出版会の編集者Kさんからどんどんゲラがやってきて、それをがんがん返していた。
数日前もそのような日だったのですが、さあ、宅急便の営業所へと車に乗り込めば、車が動かない! バッテリーがあがったのだと、駐車場近くを通った車を止めケーブルを使って作業をしたのだが、かからない。その方にお礼をいって一人ぽつり。椰子の木が2本生えている海ががーんと見える駐車場である。日本で3番目くらいに景色のいい駐車場、且つ海風のために日本で4番目くらいに車のために悪い駐車場。そこにぼんやり立ち、次の日の午前中に間に合わすには今営業所に行かなければまにあわないのだが、と思って海を見ているうちに思いついた。海を見ていると、小さい点となってサーファーたちが何人もいるのである。台風の影響で波が非常によい状態で、家の下の浜辺はサーファーたちが祭りのような状態なのだった。あの誰かに頼もう。家の庭にあるシャワーのそばで待っていれば誰か来るはずだ。その人に頼もう。庭で待っていよう、と思ったのだった。

そういえば、隔月刊の伝説のサーフィン雑誌がかつてあり、そこに書いてある言葉はあまりに深淵で、やっとなんとか読み終えるとちょうど2か月がたっていて、次の号が海辺の街の本屋に来ているのだという話をしてくれたサーファーがいた。
その話はもう少し続いていて、その雑誌の愛読者は次の号を、また一生懸命読む。ああ今回も難解だけどなんて魅力的なんだ、自分と波との間で起きたことがそこには書かれているようで、また一生懸命読むのだけれど、その前の号の文章を自分は本当に理解していないのだと実は思っていたのだそうだ。それが数年続いてその雑誌は廃刊した。その時、読者であるサーファーたちは少しほっとしたそうだ。バックナンバーをゆっくり読めると思ったからだ。それから20年の時が流れているそうだが、押し入れにその本を並べて、今でも何度も何度もその雑誌を読んでいる人が何人かいるということだ。

そんな話を思い出しているうちにシャワーを浴びに一人のサーファーがやってきた。彼に荷物を頼もう。
こんな作業をしているうちに単行本『海の家スタディーズ』は校了の日へと近づいているのだった。