「ポストブックレビュ−」スクラップ帳

Beach Clean Comicsの最終作業の打ち合わせを終えて、故倉本四郎さんのお宅へ。夫人や義弟のKさんと久しぶりにお会いする。
倉本さんは約20年間、週刊ポスト小学館)で「ポストブックレビュ−」という独特な書評テクストを書き続けてきた。書物として1000冊の本を扱ってきたことになる。そのうち本になったテクストは全体からすればわずかだ……。

倉本さんは自分が雑誌などで行なってきた仕事はスクラップしていることを前に聞いていたので、その帳面をお借りしにいったのである。

夜。一人の部屋。10数冊のスクラップ帳を前に立つ。読み始める。1冊目は1976年度の週刊ポストの切り抜きだ。開いたその時から不意打ちをくらう。倉本四郎の代表作は「ポストブックレビュ−」であるとは自他ともに認めるものだろう、だからそれは「ポストブックレビュ−」の切り抜きだけをまとめたスクラップ帳なのだと思っていたのだ。だが、「小沢昭一/四畳半むしゃぶり昭和史」という対談シリーズの切り抜きからその帳面は始まっていた。はじまった頃は自分でもこの書評の仕事が代表作となろうとは思っていなかったのだな。いくつかの仕事のうちのひとつとして、それは登場する。書物ではなくスクラップ帳ならではの味わいである。

小沢昭一のページに倉本四郎の名前は見えないが、対談構成者としての仕事であろう。写真の小沢昭一は若く、対談の言葉はひたすら下品である。春画の収集家、競輪舌先師、三遊亭円遊、ばってん荒川、36時間セックスぶっとうしマラソン記録保持者夫婦、海賊OB……。混沌とした週刊誌の言葉、「都会の女ごなら、やっぱ、いろいろせんと、満足せんちゅうし。それで、男は真珠入れた。あ、それで思いだしたばい」「品川の円蔵師匠(初代)が早っちゃべり、それから今西の正蔵師匠が郭話がうまくて、これが早っちゃべり。竹に火がついたよう……」「ハゼる感じすね。ときどき節へきてパカッパカッと」こうした言語群の泥沼の中に、本を語る倉本四郎の言葉がかすかに浮かびあがり、いつしか「ポストブックレビュ−」という新鮮なテクストの地平ができあがってくるはずだ。それを体験していこう。今年の夏は、そんな読書を行なってみる。その最初の日が今日だ。