Vの人たち

描かれるやいなや
「このような組織ではなく」と
黒板消しで消された
私の


「そのような命令系統ではなく」
と講師がいうと
疲弊した午後4時半のボランティアたちの頭の中に
突如現れ瞬時に消えていった
私の墓


夕食の時間が近くなって
キミたちの目に
それがハムに見えることを、食欲も肉欲も失った
王子である私には知らないことだけど
このエメラルド色の目からは
私の墓の拙いカリカチュアのように見えるよ
キミたちの公は


四本足から二本足、そして三本足になる生き物のなぞなぞ
その答を介護度で応える砂漠のケアマネージャー
荘厳なる足取りでやってきた
騎馬族長に「おいしいでちゅか〜」としか話せない
砂漠の体操着の人


3000人の長老たちの横にならぶ
100人の砂漠の体操着の人たちの中の
30人は、Vの人たちなのですね?


Vの人たちひとりひとりの肝臓には
グアンタナモ基地があり
新聞で拾った不祥事をみつけると
キラー細胞が蜂のように集まってものすごい拷問を加える
ほら今朝もVの人たちひとりひとりの肝臓の島に
料金所も赤いポストも 連れてこられて
Vの人たちは怒りのあまり百円玉を蹴散らし速達をトイレに流し自ら働いてもしまう
公の場で


キミたちは若く見えても、もう40を越えた人たちだから
「サービスには対価ももらえるんですよ」
と講師の先生もいったというけれど


その講師とは違う早稲田大学で講師もしている人は、こう書く
「彼らは ショベルを回していた
そこまではVの人たちと同じであった」(1)


ナホトカ号重油流失事故
そして、Vの人たちとは違う地元の人である「彼ら」のことを
早稲田大学で講師もしている人はこう描写していく
「作業が終わった 缶ジュースが配られた
自分たちで買ったのだろう
子どもたちだけが『ありがとう』と言っていた
朝なので指先も言葉も眠っているようだった
おとなたちは特に
眠っていた
近くには
自分たちの産まれた家と死ぬ家がある
彼らは早く帰った」(2)
と。


義憤にまみれた公民館の講演会も終わり
帰っていくキミたちの公営住宅
四角く、
その四角の窓をそれぞれ開けて
一番薄汚かった頃の週刊新潮の表紙のような
夜空を見上げ
N星、P星、O星に線を引き
うっとりと産まれて死んでいける
屋根の形をした
星座を作ろうとするけれど


目ざとく、
私の領土の砂漠へと
落ちて行く
流星Kも
見てしまう


#(1)、(2)は「VのK点」(荒川洋治 『渡世』<筑摩書房>所収)より引用