フリーランスの方は、読んではいけません

en-taxi』の今号に「火」という小説が載っている。一人暮らしの老人が暖をとるため、アパートの部屋の中で火を燃やし、それが元で火事となり、老人が施設に入れられる小説である。作者は恩田陸。だと思って、私は呑気に腰湯をしながら読んでいて、へ〜、さすが、さまざまなスタイルの小説を書き分ける手だれの作家は、老人小説もうまいもんだな〜と思って、「筆者紹介」の欄に目を通すと、「1932年生まれ」と書いてある、「あっ、誤植だ、女性作家にこれは悪いんじゃないか」と思って、作家の名前を見てみると「岡田睦」であった。


岡田睦を私は80年代中期、文芸誌『海燕』なんかで読んでる。たしか私小説らしい私小説を書いていて、そういえば、20年前は、かなり年下の女性と暮らし、テレビアニメの原作や自伝のゴーストなどフリーライターの仕事をしていた人ではないか! それが今やガス代も払えず、段ボールを部屋で燃やし、「金子百二十円。タバコも買えない」などと書いている。ひえ〜! 私は、なぜか急いで80年代当時の岡田睦の小説をまとめた『乳房』(福武書店)を図書館でわざわざ借り出し、確かめてしまった。


記憶は確かであった。20年前、この人はサンタクロースを主人公にしたアニメの原作を書くなど、それなりに物書きとしての仕事をしていた人だった。だが今や、福祉施設(?)の職員に「臭え」「臭え」といわれ、無理やり風呂に入れさせられているのであった。フリーランスの未来……。


フリーランスの人よ、この「火」という小説は、恩田陸が書いた老人ファンタジー小説です。まあ、あまりぱっとしない話ですので、読まなくてもいいと思います。間違っても岡田睦と混同しないように、ましてや『乳房』をわざわざ借り出して、参照したりしてはいけません。