平均年齢66.9歳の俳優たちの劇団

先日、彩の国さいたま芸術劇場に行った。
この劇場の芸術監督を務める蜷川幸雄さんは、今、公募で集まった平均年齢66.9歳の俳優たちで構成された劇団のプロジェクトを動かしている。
その取材をしたのだ。
ここでは詳しく書けないので、稽古場で経験した印象的だったことをひとつ。
稽古で、約40名の中高年のメンバーたちが順番に与えられたセリフをいっていく場面があった。
たぶん70代の男性だと思うが、その人が語ってみせたセリフの中に「ボブ・ディラン」という言葉が含まれていた。この方は、ディランという名前の人間が、どんな人物であるのか、まったく知らないのだろう。この方の発音する「ボブ・ディラン」は、とても新鮮で、私たち日本人には知る由もないヨーロッパの局地的な戦争に登場してくる人物、たとえばコルシカ四十年戦争で反乱軍を鎮圧した指揮官のことをいっているような、どこか途方に暮れるような響きがあったのだった。
長い人生の中でさまざまな経験をしてきた人間が、無知であること。
いつだって人は無知でいられ、新鮮な体験をできること。
それがボブ・デイランという歌手の名において示されること。
この平均年齢66.9歳の劇団、蜷川演出で来年の春に公演をすることを目指している。期待したい。