歩いていく/ナレイションがかぶさってくる/ロックを鳴らす

家から徳富蘇峰の庭を抜けて戸越銀座を目指す。
よい神社空間を発見。その社殿の前に立つなり頭が伊丹十三テレビマンユニオンに切り替わり、70年代『遠くへ行きたい』となっていく。米軍放出品の服まとって少し古風な文体のナレーションという主体となって風切って歩いていく。というのも5月に松山でオープンする伊丹十三記念館の図録編集が最近の私の仕事の中心だから。デザインは山口信博氏。きっと素晴らしい図録になるはず。


その伊丹十三記念館、設計・展示デザインは中村好文氏。中村さんは生粋のイタミ狂。今、日本に個人の記念館は数多くあるが、設計をする建築家が、その建物の主題となる人物をこれほど愛し信奉している例はないのではないか。希有な例。愛情や尊敬が空間となっていくとはどういうことなのか。ぜひ、みなさまも体験していただきたい。


最近私がしていることは画像に触れること。テレビを見ていて気になる人がいたら手を伸ばし、その人物の画像に触れる、雑誌を読んでいて美しい人だなと思えば指先で触れてみる。これがなんとも良いのである。画像をただ眼で見ることと、それに手を伸ばし触れることを加えた行為はまったく違うこと。人間の作業の大半をしてしまう手を伸ばす時に生じる「積極性」と、伸ばした先には反応をしない画像がただあるという「リアリティ」。その二つが画像をさする時に「ブレンド」されるのである。その際にたちのぼっていく宗教的なような少し哀しいような。


戸越銀座温泉に着く。新たな空間に再デザインされた銭湯のオープニングイベント。銭湯のペンキ絵のライブペインティグが行なわれていたのだ。銭湯ペンキ絵師の中島盛夫氏とライブペインティングユニットのgravity freeが新しく建設された銭湯の壁に絵を描き、それを風呂場に坐って鑑賞する。あの町田忍さんの解説・進行、DJはあきもとキンぢさんで、快いサウンドの重なりを十分に楽しんだ。gravity freeの二人とはレイヴ・パーティ渚で出会った。独特な二人。本日も素晴らしいライブペインティング。この戸越銀座温泉の設計は今井健太郎氏。タイルの並べ方、半露天風呂の空間のまとめ方などとても素敵。この湯に入ればささやかながら、しかし深い幸福が得られるであろう。少し遠いとはいえ歩いていけるところに、このような温泉空間が出来たことは喜ばしい。明日もイベントあり。グランド・オープンは19日から。私は近日中に行くつもり。


戸越銀座商店街のヤキトリ屋。ほとんど外空間で飲み食べる。商店街を歩く人々。それを見ながら頭の中で音楽を鳴らす。ハードロック。70年代『遠くへ行きたい』の影響。ウォークマンiPodも使用しない。頭の中に音楽を鳴らす。ジム・オルークのことを少し考える。頭の中にロックを鳴らす。それに飽きたら読書。『舟と港のある風景』(森本孝 農文協)。宮本常一の弟子、森本氏の海辺の暮らし記録。この本を持っていられることの幸福。都内某書店では、本書と『舟小屋』が並んで置かれていたではないか。目次ページ、越前町居倉の海辺でウニの殻を割る人々の写真。不思議なテントのようなものが張られ、その陰で作業をしている。この空間は何だろう。写真に向かって手を伸ばす。