シュヴァンクマイエル展の図録について

hi-ro2007-08-30


今回ラフォーレ原宿で行なっている、シュヴァンクマイエル展の図録の紹介をしときます。
目次はこうなってます。

展覧会へのメッセージ……ヤン・シュヴァンクマイエル  6
不思議の国のアリス……ヤン・シュヴァンクマイエル   10
夢……エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー     12
アルチンボルド的要素による遊び……ヤン・シュヴァンクマイエル  14
はじまり……エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー    16
私にとって、 モノは人間より生々しいものだった……ヤン・シュヴァンクマイエル  18


シュヴァンクマイエルの「身体」は、 現在の私たちの何を刺激しているのか?…… 布施英利   20
『アリス』のイメージの固定化に刃向かう 数少ない作家、シュヴァンクマイエル…… 山形浩生  22


図版
博物誌        25
操り人形       35
アルチンボルド判じ絵  43
錬金術(秘儀)   55
触覚主義    71
夢とエロティスム   79
物語   87
アリス   97
人間椅子  108
資料    109


モノやヒトをデペーズ・変移させ日常の「らしさ」を 破壊するパタフィジックな想像力……粕三平  110
シュヴァンクマイエルとロシア美術における 自律的なモノのアニマティズム…… ロディ・オン   114
プラハ〉という磁場、 〈シュルレアリスム〉という磁場……阿部賢一   118


年譜  124
作品目録  130
ヤン&エヴァシュヴァンクマイエルの著作、映像作品  138

出品作品の図版も魅力ですが、テクストもおもしろいものが揃ったと思います。
布施さんのエッセイは、ゴスロリ、アリス少女、美術系の若い女性たちがたくさんやってきている今回の展覧会を予感する形で、
シュヴァンクマイエルの作品を女の子がなぜ「かわいい!」というのかを語ろうとします。


山形さんの原稿は、シュヴァンクマイエルの映画『アリス』の魅力を、アリスのイメージの固定化を行なう挿画家のジョン・テニエルに対するイメージ奪還闘争にあることを書いている魅力的なエッセイです。


後半のパートに移って、すでに亡くなっている粕さんの論文を載せたのは(雑誌『夜想』に掲載されたものです。今野裕一さんに、許可を頂いて抜粋転載させていただきました)、シュヴァンクマイエル氏が自身の日本への最初期の紹介であった粕氏の原稿掲載を希望したからです。映画『地下室の怪」『庭園』『家での静かな一週間』などを描写しつつシュヴァンクマイエルの世界でのモノの独特な動きを語っています。


ロシア人の美術研究者、ロディ・オン氏の論文は、ロシア革命のすぐ後に行なわれた「都市アパートへの大規模移住」を語るところから始まります。コミューンを理想とする「コミュナルカ」と呼ばれるこのアパートでは、モノは理念的に行なわれる共有と、どうしようもなく行なってしまう私有の狭間で、属性を失っていきます。そしてモノは、人間に支配されないモノ独自の魅力を出すことになっていくことも。その状態は、シュヴァンクマイエルが描く自分勝手に動くモノとほとんど同じなのである、といった視点で書かれた論文です。これは非常に面白い論文です。


この図録の翻訳を担当した阿部さんの論文は、ヤン・シュヴァンクマイエルエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーという二人のシュルレアリストプラハという場を通して、あるいは、シュルレアリストたちのネットワークを通して見ていく試みです。特にエヴァについてのパート。女性であることを強制していく文化の中で(チェコ語の文法性には男性、女性、中性があり、女性が話すときには女性形を用いて話すことになる。また女性であることによって、名前も女性の名前になる。シュヴァンクマイエルとシュヴァンクマイエロヴァーに注意)、さまざまな自分自身を表現していくこと、複数形のエヴァを作り続けていくことを、女性性を脱却した画家トワイヤンを通して語っていくところが、とても興味深いと思います。


主な制作スタッフと、定価などの情報は以下の通りです。

編集 渡邉裕之
翻訳 阿部賢一
アートディレクター 大久保裕文
デザイナー 野田明果(ベター・デイズ)
発行 エスクァイア マガジン ジャパン
A4判変型 139ページ
定価2,520円(税込)

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