シュヴァンクマイエル展店員日記(4)

シュヴァンクマイエル展は、最終日に近づくにつれ、来てくれる人たちの数は増えていった。売店の売り上げもかなりいき、私のレジ打ちの技術も向上していった。そんな中でも何人かの人たちと話すことができた。とても素敵な雰囲気の高齢の女性はロンドンでバンドをしている方だった。展覧会はとても楽しかったようで、このラフォーレミュージアムでライブをしたいなといっていた。もらった名刺をきっかけにいくつかのサイトを見たら、イギリスの奥深いオルタナティブ世界が広がっていった。来年の7月の洞爺湖のサミットで会いましょうといいたくなるような人々であった。ゴスロリの人々の臆病さについて語ってくれた人もいた。「覗きたくて覗きたくて、でも自分じゃぜったいしない子ばっかなの」とその人はいった。そういえば『人間椅子』の本を売店に見にくるだけの目的でここに来て、「私は怖くて入れない」と帰っていった子がいた。「展覧会はどうでしたか?」と聞いたら、瞬時にシャープにそう返事をした女の子だった。その瞬間、身も心も切られた。2時間くらい不調になった。ほんとうに臆病だったら、このくらい表現しなくてはね。


美術展の入り口の売店で、「私は怖くて入れない」といってのけ帰っていった女の子は、今回の金賞だ。君には、君が買っていかなかった図録の123ページに載っている「剃刀の詩」をネックレスにしてさしあげよう。展覧会に来て、「ここへは入れない」と拒否することは素敵なことだ。今まで何人もの子たちがそうしてきたろう。しかし、それを表現にすることは難しい。それを実現させた店員にも銅の剃刀の詩を。


恋する人の顔をして、何度も通ってきた子もいた。展示物の何に恋したのか聞きたかったが、そのような人は運命の階段を駆け下りているので、取りつく島もなく、ただ目で追うしかなかった。仮設売店の店員が夜に唄う、悲恋の唄を、いつかお聞かせしよう。
などと「彼女たちの想像力」と遊ぶ日々も終わった。


後片付け。エスクァイア社の倉庫に送る図録返品用の箱は、たった一箱。素晴らしい。次の日にギャラ計算をした。そのまた次の日に、渋谷のシネマライズで映画『サッドヴァケイション』(青山真治監督)を見てふっきれた。ちょっと勘が働いて、帰りに松涛の美術館まで足をのばし、毛沢東が自分のためにつくらせた皿や茶碗を見にいった。とてもつまらない代物。彼女たちの想像力……。未来の百万人のウェイトレスに、もう一度快楽原則を!