赤毛のCody


ヴァン・モリソンがいかに不機嫌な態度で唄い、且つ感動的なステージを作るかを教えてくれたduke377さんに、感謝を込めて、以下のテクストを贈る。
http://d.hatena.ne.jp/duke377/


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赤毛のCody』


Mississippiで起きたチェンソーを使った惨殺事件、Louisianaでの3組のカップルの失踪、TexasでのUFO信奉者たちの集団自殺……。
ここらで読む新聞は、まるでB級ホラー映画じゃないか。従業員の前ではせせら笑っていた俺だったが、会社からの帰り、ハイウエーを出てしばらく走ったところで、アリゲーターがうようよ潜んでいるにちがいない沼地に出てしまい、その大がかりな闇に震えが止まらなくなっていた。
墨田区東駒形生まれの俺が、Louisiana州Natchitochesでいったい何をしているのか。
 

もう20年も前、会社に入ってすぐに気づいたのは、「赤毛クラブ」に入ってしまったということだった。
子供の頃は病弱だったので、祖母が買い与えてくれた本をよく読んでいた。
シャーロック・ホームズの小説に出てくる会社「赤毛クラブ」。赤毛の質屋の主人は、突然の勧誘にのって赤い髪の人間だけが集まる会社の事務を始める。無意味な仕事だったが給料はよかったので、彼はその仕事を続けた。
それは仕掛けられた会社。赤毛の男が仕事に出ている隙に、犯人たちは質屋の地下室でトンネルを掘っていた。
トンネルの闇の先には、質屋の隣の銀行の金庫があった。


大学出たての俺も、こうして自動車部品に関する事務仕事をしているうちに掘り崩されていると思っていた。
辛抱した。闇を抜ければ、年寄りに育てられた自分とは違う男が立っているはずだった。


アメリカに飛ばされる前は、福岡のはずれの工場だった。
その近く、かつての炭坑町のバーで、俺は髪を染めた女と知り合い、しばらく一緒に暮らした。
ある日、営業の合間に博多の映画館でホラー映画を見てきたと話すと、女はあきれたような顔をしてこういった。
「映画やビデオで恐ろしいこと見る人の気持がわからん。やっぱり、この町の人間じゃないっちゃね。あたしにとって恐ろしことはいつでも自分が立っとう地面の真下にあるとよ」
そしてハイヒールで床を叩いた。その音は確かに、町の地下を走る無数の坑道があることを示していた。
帰ってこない女の祖父が何十人もの仲間と潜む闇。
 

Mississippi州Mageeからやってきた工場長補佐Cody Walker。あいつは本物の赤毛野郎。
Codyが好きなJim Croceの唄を聞きながら、ぶきっちょなあいつと仕事をしていると、ばあちゃん、人が働くことの切なさに涙が滲むこともあるんだよ。


だが、明日、俺はCodyの首を切る。奴らはすぐにピケをはる。遠巻きにしているCodyの仲間の一人に、俺は唾を吐きかけられるだろう。
ラジオのスイッチをひねると車中の闇に鳴り響くDELTA BLUES!
カンテラを下げた真っ黒な坑夫が叫ぶように唄う唄。


オー、コノ闇ノ、オーコノ闇ノ天井ノ上ニハ
エミィーノスカートノ中
愛シイ愛シイ暗闇ガマタ待ッテルンダゼ〜オ〜マンコ〜


畜生、いったい本社の人間は、どこまで掘り進もうというのか?
明日、俺は赤毛のCodyの首を切るんだ。



(写真は、なんとなくRalph Mactellの『STREETS OF LONDON」の中ジャケの一部を引用いたしました。俺、ホームランの福田さんに、このレコードを10数年借り続けています)