今年最後の日記


恒例の暮れの築地の仕事(四日間だったけれど)を終えた。これから数日だけど休めそうだ。朝5時半くらいから栗きんとんを売りつつ、書店からのポストカード追加注文への対応をこなし、市場近くのカフェで自分が書いた記事が載っている雑誌を読んで休憩し、夜はデザイナーの工藤強勝さんや右文書院の青柳さんらと書籍カバーに関する打ち合わせをし、その後、青柳さんと酒を呑むという、自分が考える理想的な労働スタイルの日々を過ごすことができたことがうれしい。


おせち料理を購買する人々の中核にいるのは老人たちだ。その人たちの購買力が落ちていることが確実に感じられた。この仕事をする前日、ある件で、建築計画の研究者の方から、高齢者専用賃貸住宅(これからの日本の重要な意味をもつスペースとなるはず)について、話を聞いた時、小泉純一郎政権が行った「改革」のボディブローが、今になって猛烈に効きだしていることが実感できた。高齢者を含む生産性を上げない人々は、住宅問題を筆頭に、より厳しい生活環境へと向かわせられるであろう。その生活を乗り切っていくには、不断の情報収集を含む「より一層の競争」が用意されているのだけど、自分を含む多くの人はその「競争」がどんなものかさえよくわからない。だから、とにかく生活費を切り詰めるという方法で「防衛」する。500g買っていた食べ物を350gにする。打たれた腹が、強烈に痛みだしたとしかいいようのないありさまだった。
東京の築地でこうなのだから、あの「改革」が切り捨てた地方、その高齢者たちのことを考えると……。


誰も評価することのできない、そのシステムはわけがわからないが、しかし日々何かを生産し続けている労働スタイルの方向へと向かっていくつもりだ。「より一層の競争」へはぜったい行かない。
この築地でもわけのわからない労働を行っている老人たちを何人も見た。
買ったたくさんの野菜を段ボールに詰め込み、それを背負って歩いていた老婆。ロープで箱をしばり背中にしょっているのだが、そのロープの張力の使い方は初めて見るものだった。人間が物を運ぶスタイルの豊穣な ヴァリエーション! この日本の山間のどこかの郷ではこのように物を運んでいた人がいたのであろうか。
また推定身長140センチ代・推定70代の女性は、可愛らしいコートにリュックサックをしょい、右手にこれも今までみたこともない装幀の学術書らしきものをもって、店頭のおにしめのパック入りを見ては「これは便利ね〜」と繰り返し感動していた。その小さな存在からは、もうこの世界にいる時間はわずかであり、私には料理をする時間が惜しいという、ひしひしとした気持が伝わってきたのであった。あの御本には何が書かれていたのでしょうか。文字を見ても私などには皆目わからず、開いたそこにはロバチェフスキーの肖像か、あるいは単片双曲線の宇宙模型が描かれていたのを見れたかもしれませぬなどと考え、店の正面に立てば、築地本願寺(写真参照)。
2007年はこうして終わり、あと少しで2008年がやって来る。