米 空 結婚式

米 空 結婚式


夕方、米を研ごうとしたその時に、今、そこにある白い米が、どこか遠くの国の婚礼の空では大きく撒かれるのだと思ってしまうその時、今ここでないもののパレードに囲まれて、夕暮れの台所がやにわに賑やかになる。
しかしふと疑問がわく。そういえば少年時代に見たテレビで、西洋の結婚式で米を撒く映像を見たことが度々あった。しかし最近は見ないな、テレビを見ないからそうなのか、彼の国の式典では米が青空に撒かれるのだと思っていたが、それはほんとうなのだろうかという気になって、電気炊飯器にスイッチを入れてから一匹の疑心暗鬼となってコンピュータの前に坐る。


鬼どころか検索馬鹿になってしまっているので、「米 空 結婚式」という言葉を打ち込み検索エンジン動かしてみると「米軍 アフガンで結婚式場を誤爆」という記事が浮かびあがってきた。
先月の11月3日、タリバン武装勢力から攻撃を受けた米軍が空爆を行った際、現場近くの結婚式場を誤って破壊してしまったのだという。37人の死者。
「米 空 結婚式」は、大空襲となって、自分の身に降る。誤爆である。


1時間気分が沈鬱になり、ちょうどごはんが炊かれた。夕食となる。
納豆の醤油入りのビニール袋を指でちぎる。と指が醤油で汚れる。その度に思い出すことがある。ある食品会社のPR誌のコラムで、女性詩人が書いていた文章。調理用のハサミについての文章である。最近手に入れたハサミはとても便利だという、ちょっと得意気な言葉。特に納豆の醤油入りの袋をそのハサミで切った時に威力が発揮される。指先が汚れない! うれしくなって女性詩人は、ハサミをちょきちょきと鳴らす。うれしさあまって空中まで切っていく。さすが女性詩人である。その姿の描写がうまい。うますぎる言葉なので覚えられず、姿だけが頭に残った。もう十年以上前に読んだコラムだが、以来、件のビニール袋を指でちぎる度に、ちょきちょきちょきの女詩人を思い出す。
詩人は独身か。ハサミで切られていく。大空だ。気が晴れた。