カリフォルニア高速鉄道/ブルース・スターリングのキオスク

カリフォルニア高速鉄道/ナチュロック/ハドソン川の奇跡ブルース・スターリングのキオスク

JR九州の列車デザインをしている水戸岡鋭治さんとのトークショーが終ってからも、鉄道のことを考え続けているんだ。


今週の月曜日(2月2日)朝日新聞朝刊に内蔵されていた「GLOBE」(未来の新聞を示唆している装置のようで、非常に興味をもっている)の特集は「鉄道復権」だった。
オバマが米国大統領に選ばれた昨年11月4日、カリフォルニア州住民投票で米国初の「超高速鉄道」の建設が決まったという記事が出ていた。サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴなどを結ぶ時速350キロのアメリカ版新幹線の建設が決まったのだ。
計画を動かした「第一の要因は『環境』だ」という。
その他、アメリカでは高速鉄道の建設候補が11路線もあるという。EUでもクルマ社会に対抗しつつ高速鉄道の建設の動きは活発化。中国、インド、ブラジル、中東でも計画は多くあり、しかし日本の鉄道技術はガラパゴス化して、なかなかうまく受注がとれないと書いてあった。先日、水戸岡さんが控え室で、今、列車メーカーは海外からの注文に忙しく、自分がデザインしているような発注台数が少ない列車は、合間にしか作ってくれないといっていたが、現場と会社幹部の見解はいろいろと違うんだろうな。


アメリカのモノづくり、特にカリフォルニアあたりのそれは理念的なところが強いから、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴを結ぶ高速鉄道は、エコロジーや公共空間性を前面に出すのではないだろうか。水戸岡さんの仕事がもっている天然素材使用や公共性の意義が、カリフォルニアのデザイナーにうまく伝わってほしいな(日本の会社が建設に関わることは決まっていない)。


では、クルマ社会はどうなるかと考えると、最近私が興味をもっているのが「日本ナチュロック」という会社。
http://www.naturock.co.jp/
溶岩を使ったフィルムその他でコンクリートを覆ってしまおうという壮大な計画をもっている会社だ。多孔質な溶岩には苔などの植物が生えやすく、それをコンクリート化した都市に導入すれば緑化が著しく行われるという。このサイトで見れる高速道路の壁面を溶岩で覆い、緑化していくCGは、自分が思っている未来のクルマ社会の姿だ。そして、溶岩カー。溶岩に覆われ緑化された自動車! この写真を見て、この会社はすごいと思いました。はっきりいって少し狂っている野望でもあるのだけれど、溶岩で覆われている都市風景には、私、とても惹かれます。大注目したい会社、日本ナチュロックです。

こうした動きと関連する形で気になることをもうひとつ。バイク便の会社「By-Q」。
http://www.by-q.co.jp/
新サービス「スーパーBy-Q便」を開始するようだ。これは配送方式を、客が従来のバイク便一方式ではなく、バイクや自転車、そしてエコキャリー(公共交通を使った配送)などの中から選ぶというもの。バイク便から公共交通を使った配送へのシフトを狙ったもののようだ。都市の公共交通(特に鉄道)を上手に使っての物流、その光景にもとても魅了されている。
公共交通を使ったモノ運びの話は、この会社の人にぜひ聞いてみたい。


今は特殊交通系の頭になっているので、読む漫画や小説も、そういったものが多い。
漫画でいえば『カブのイサキ』(芦奈野ひとし 講談社)。物語が繰り広げられるのは、地面のサイズが10倍になった世界の三浦半島地域(大楠山は2000メートル級の山脈になっている)。広大な世界で、飛行機はバイクのようなものになっている。タイトルは、飛行機をバイクのカブのように使おうとしている少年イサキから来ている。
作者の芦奈野は、前作『ヨコハマ買い出し紀行』では海面浮上で土地が狭くなった近未来三浦半島での暮らしを描いたが、今作品では、一転して、地面のスケールを10倍にしてしまった! 環境破壊、戦争でのその後の「つつましい暮らし」を描く想像力は現代人が共有するものだ。そのような物語のコミックスや小説は実に多い。それは現代人の原想像力ともいうべきものだけれど、どこか自由でない窮屈さも同時に感じてきた。この作者は、そこを「地面が10倍」という荒唐無稽さで乗り越えてしまった。キャラクターの描き方、コマ割にも、抜けた感じの楽しさが横溢している。あの『ヨコハマ買い出し紀行』の想像力を飛び越えたすがすがしさが感じられる。といっても、「その後の世界」の切なさのトーンは変わらない。切なさは、『ヨコハマ買い出し紀行』では車やバイクが自転車のように使用されているという、20世紀型ヴィークルとしての夢を失った使い方から醸し出されていたが、『カブのイサキ』では飛行機がバイクにように扱われているところからきているのだろう。切なさが深化しているのだ。現在の交通機関に対する感情の急速な変化に基づいた漫画。ああ、おもしろかった!


飛行機といえば、ニューヨークの飛行機事故「ハドソン川の奇跡」。あのサレンバーガー機長に、建築家の石山修武氏が注目しているようだ。それはそうだろう、
私が『ミュージックマガジン』2008年6月号で彼の著作『セルフビルド』(石山修武中里和人 交通新聞社)の書評で書いた通り、あの書物で石山氏は「生還するアポロ13号的技術」を称揚していたのだから。
アポロ13号は、突如故障して宇宙に放り出されたロケット。しかし、宇宙飛行士たちが「宇宙船内にあったガムテープやら身の廻りの用品を使い」修繕し地球に帰還することができた。この本でいうセルフビルドとは、「アポロ13号型技術」を実践し、危機の時代を生き抜くことだ。その立場からすれば、サレンバーガー機長、航空機A320の技術は大注目なのだろう。


先に漫画を紹介したが、小説をひとつ。『SFマガジン』2009年1月号(早川書房)に載ったブルース・スターリングの小説『キオスク』(小川隆訳)。
旧ソ連圏の小国。主人公、ボリスラフはキオスクを経営している。そこには立体をコピーできるファブリカトールという機械があり、彼はそれで儲けていた。ある日、EUの調査団がキオスクの全てを買い上げていく。空っぽになった店内に、入手した新型ファブリカトールを設置するところから始まる物語だ。物流にフォーカスした交通形態の物語として読んだ。ブルース・スターリングらしいコンセプトは面白いが読んでいくうちに、なんだかわからなくなる小説……。しかしキヨスク愛好派には、なんだかずんずん読めますよ。激しい物流と小屋のモノとの関係性が示唆的ですから。

 
さて、ブルース・スターリングが捨てたアメリカ。その未来、時速350キロのアメリカ版新幹線のサンフランシスコ駅のキオスクには、どんな物品が置かれるのだろうか。ホールアースカタログのようなキオスクなのかな!


そうだ、水戸岡鋭治さんとのトークセッションのパート2計画が持ち上がっています。詳細が決まり次第お知らせいたします!


写真は、上からJR九州の列車、ソニック885系ソニック883系の運転席、それから駅構内にあった気になるたこ焼き屋(構造的にもおもしろい駅だったのだけど、駅名を忘れてしまった!)。これは昨年春に取材の際に私が撮影したものです。