水戸岡鋭治さんとのトークショー

1月26日「デザイン列車 翔ける 旅する空間の生み出し方」というタイトルのトークショーを行った。
現在、東京・京橋のINAXギャラリーで行われている展示「デザイン満開 九州列車の旅」に付随するイベントで、JR九州の列車のデザインを手掛けている水戸岡鋭治さんの話を聞く会。私はインタビュアー役である。
水戸岡さんの列車デザインに関する基本的な考えは、同展のパンフレットに書かれているので、今回は写真を見ながら、それぞれの列車のデザインについて具体的に語ってもらうことを主旨とした。


正月早々、昨年の春の取材時に撮影した写真(写真家は雨宮秀也さん)の膨大なストックの中から写真を選びだし、水戸岡さんのデザイン事務所であるドーンデザイン研究所から借りたパース、イラスト、写真などを合わせ、トークショーの構成案を作っていった。


構成案は、講演会の限られた時間、1時間半では足りない内容のものになったが、
話がどこへ流れても対応できる写真や質問の並びができたので、これをよしとした。


コンピュータで映像を見せていくことをトークショーの最中にすることは、話を即興的に展開することが難しくなるが、「水戸岡鋭治の世界」を伝えていくには、実際の列車の写真と水戸岡さんのあの独特な言葉をジャストフィットさせることが大切だと思い、自分で操作することにした。


今回パンフレットでは、肖像権の関係で乗客の顔が出ている写真はほとんど使用されていない(私は編集していないけど、そう思う)。しかし鉄道の旅の楽しさは、乗客の顔が出ればもっと伝わる。そのためにもパンフレットで使えなかった乗客の顔が出ている写真を見てもらいたかった。そこに水戸岡さんの言葉を重ねれば、非常に面白いものができるはず。写真を上手につかったトークショーにしようと思った。


今回は構成者としての意識が強く、こうした意識は、当日会場での出演者としての自分の言葉を貧しくする予感はあったが、今回は水戸岡デザインワールドの最良のプレゼンをしたいという目的があったので、この意識のあり方でよいと決めた。


当日、水戸岡さんとお会いする。会ってすぐに、水戸岡さんの言葉のある部分がまったく自分の頭に入ってこないことに気づく。
会話をしていても、その話を構成案のどこに置き写真と組み合わせていこうかと考えている。これはいかん、構成者としての意識が強すぎると思うのだが、どうにもならない。水戸岡さんの言葉は、「現代の企業の常識的な仕事の仕方を覆す力」があるのだが、そういった話に自分が反応しないのだ。こうした話は受けることはわかっていたし、自分も大好きな話なのだが、これにインタビュアーである自分が応対してしまえば、話は全体として抽象的になるか人生論になってしまい、結果的につまらないものになってしまう、それに1時間半の時間はそれですぐに終ってしまうだろう。水戸岡さんのこうした「覆す言葉」は観客の方々の心にまっすぐ伝わっていけばいいのであって、自分の中に入ってこなくてもいいと思う。言葉の絶妙なキャッチボールを見せられれば、それは素晴らしいことなのだが、windows系のソフトで映像を見せながら話していくことにまだ慣れていないこと、水戸岡さんの重量級の言葉を受けとめながらのトークショー構成はあまりに難しいことの理由によって、それはできないだろうと、開演10分前に判断した。


構成案の大まかな流れは、以下の通り。
01JR九州の仕事を始めたころの話
02ゆふいんの森
(列車内の遊歩について、女性客室乗務員のサービスと制服デザインの関係について)
03つばめ
(特徴的な外観デザイン、自然木を使う理由、従来の新幹線について)
04リレーつばめ
(図版を見ながら、スケッチから設計の流れについての解説、モケットの豊富な柄について、そこから水戸岡デザインに現れる「まだら問題」<自然のランダムパターンについての自分の意見をいうこと>、照明について、航空機のような荷物棚について)
05あそ1962
(自転車を乗せるアイデア、ノスタルジー問題)
06九州横断特急
(列車の名前、その表示の仕方について、車窓の光景とデザインの関連性)
07いさぶろう・しんぺい号
(鉄道遺産を見せる仕方、古い駅をどのように残すか)
08ソニック885系
(斬新な空間コモンスペースについて、総革張りの椅子について)
09はやとの風
(外観と内装のギャップの演出、駅のリニューアルについて)
10なのはなDX
(風土と列車デザインの関係性、時代に取り残された観光地の活性化問題)
11ソニック883系
(未来的な空間デザイン、ミッキーマウスの耳のようなヘッドレスト、運転席の見せ方、JR九州の列車総体のデザインと個別デザインについて)
12これからの仕事の話


実際には、01〜04で大半の時間を使い果たし、そのため08に飛び、次に11へ行き06の列車の名前と表示問題でいったん終わり、観客の方々の質問をお聞きし、そして12で終了となった。(05、06、07、08の半分、09、10は紹介できなかった)


洗練された列車デザインを多く見せる形になり、ある種泥臭いものが紹介できなかったのは残念だったが、水戸岡デザインワールドの重要なところは触れることができたと思う。


会場の観客の方々の熱気はすごかった。気になるデザイナーの話を聞きにきて、その場で水戸岡ファンになっていく、その様子が壇上からもわかるような会だった。こうしたカルチャー系講演会で、この熱さは特記すべきことではないだろうか。
(80年代の自動車雑誌『NAVI』のような鉄道雑誌が、今、必要とされているのかもしれない)

来て下さった方々、どうもありがとうございました。


打ち上げとして近くの韓国料理店へ。INAXギャラリースタッフの方々とパンフレットスタッフ、水戸岡さん、名古屋での講演会に出演した源石さん、お誘いした写真家/文筆家の瀬戸山さんらと歓談。


大井町で瀬戸山さんと少しだけ飲み、歩いて大森の自宅へ。
実は水戸岡さんと控え室で話をしていて、自分のある資質に気づくことがあった。そのことについてくどくどと考えながら夜道を歩いた。
家で鈴木慶一の「自動販売機の中のオフィーリア」を聞く。
彼の唄には、雪の日の壮烈な鬱状態が隠されている気がする。虫歯を舌で触るような仕方で、ヘッドフォンで聞いた。それから夜遅く眠った。