ナンダロウアヤシゲな日々

さて、その南陀楼綾繁氏が本を出した。「ナンダロウアヤシゲな日々」(無明舎出版)という本である。古本のこと、タウン誌のこと、ミニコミのことがいっぱい細かく書かれた本だ。この本の隠し味は、逃避としての読書の味わいがあるところだろうか。たとえば私の場合だったら、仕事がつまっている時に限って読んでしまう虫明亜呂無の本、暗い気持ちになっている日だからこそ読もうと思ってしまうニッポン私小説文学、女の人ともう真面目に話をしなければいけないのに読み続けてしまうハードボイルド、まったく金のない状態で寝床の中でひたすら読むイナガキ・タルホなど。そういった逃避としての読書行為のいけない味がちらりとあって、この人のものは読み続けてしまう。


南陀楼綾繁氏の書く文章の味わいは全体としてはノホホン系だが、実際の本人と話していると、記憶力の機能がギンギンに動く人だなという印象だ。本で読んだある時代のことがしっかり再現できたりする能力をもっている。詩人の奥成達さんとこの人と酒を呑んだことがあるのだが、とても面白い状況に陥ったことがある。


奥成さんが60年代の思い出話を語るのだが、南陀楼綾繁氏がいちいち訂正するのだ。「違いますよ、その山下洋輔トリオのライブは@@@ホールで、その時は白石かずこさんが出たんですよ」などといったりして、「確かにそうだった」などと奥成さんもいい、この時は、記憶が曖昧になっていく詩人と、古書マニア青年が織り成すタイムスリップスラプスティクSF演劇のようなものが私の目の前で上演されてしまったのだった。


南陀楼綾繁氏には将来、とにかくあの記憶力を使った、60年代再現本、あるいはもっと勉強してプレイガイトジャーナルの歴史などの本を出してほしい。