ものすごい作品を見た(塩水振動子ということ)

先週の金曜日は立教大学の文学部ドイツ文学科の高橋輝暁教授にお会いした。勝手に自分たちが行っているあるプロジェクトのためである。史的唯幻論の岸田秀、宗教社会学橋爪大三郎、そしてヘルダーリン研究の高橋輝暁、いったいこのラインは何を示すのか。いつか語りますね。


その後、一緒にそれを行っている写真家Mが銅金裕司の作品を今日、撮影しなければいけないといいだしたので、馬喰町にあるビルに行くことにした。そこで、ものすごい作品に出会ってしまったのである。

銅金の植物の生体電位をとって音に変換するような作品は随分前から知っているのだけれど、塩素水振動現象を具体的に目に見える形にしてくれている作品だ。

塩素水振動現象について説明する。


「底に小さな穴をあけたコップの中に、3〜5モル濃度の食塩水を入れ、
コップごと真水の入った容器に液の高さが同じになるように入れると、
塩水と真水が交互に穴を通り、行ったり来たりする。


このような流れのリズムを塩水振動子という。
塩水振動は、1970年にアメリカの海洋学者マーチンによって発見された現象である。
海洋では密度の高い水が、密度の低い部分の上にくる密度逆転が起こることがある。マーチンは、密度逆転のモデルを作って、学生に対して演示実験をやろうとして、塩水の上下運動のリズム現象を見つけた」


これは以下のサイトから引用(その他の説明も参照してください)
http://mathsci.doshisha.ac.jp/2001/webweb/ensuisindou.htm


複雑系などの話では、この動きを数字で示したり、シミュレートしていくことが大きくとりあげられていたりするのだけれど、今回の銅金の作品のポイントは、その水の動きをライブで見れる影絵のようなものとして作り上げたことだ。


「塩水振動子を見えるようにしたのは世界初です」と銅金はいっていたが、この振動の動きがまたすごいのである。クラゲが分身の術を使って泳ぎきるというか(クラゲファン必見)、若い子がいきなり「保健の授業で見た〜」と叫んでいたが、変幻自在の精子の動きというか、毒キノコを食べてトリップしキノコの傘ががんがん空中に飛んでいくのを見ているというか……人間だけでなくどんな生物も必ず魅入ってしまうような原始生命体の動きをするのである。

銅金はこの作品のために、こんな言葉を書いている。
「この現象が見られるのが、川と海が出会う渚です。海の水は川を何キロも遡上し、その汽水域と呼ばれる場所ではさまざまな生命体が育まれており、生態学的にも極めて重要な役割を果たしています。私はこのような淡塩水の混合過程を、ずっと昔研究していまして、いつか作品にしようと思っていました」

因みのこの作品のタイトルは「受胎振動」という。
海辺スペースを考える人間として、「これはものすごい作品を見てしまった」と感動に振動したのであった。


いや、銅金裕司はあるレベルを越えて、すごい表現をしてしまったのではないか。
塩水と淡水の差の運動。差異とか差延とかいったものを視覚的な運動として提示してしまったのだ。

見た場所は……う〜ん、馬喰町の作りかけのビルのそれまた作りかけの一室で、銅金氏に聞いても、その展覧会がなんだかよくわからず、他の部屋にあった絵画もよいものがあったが……わかりしだいここに書いておきますね(その作品はすみません、昨日で終わっています)。


だいたい、ものすごいものとは、とても説明できない場所でみつけたりする。
そういえば、東京湾側のある海の家に週末遊びにいった。これも感動的な空間だったのだが、まったく自分にはわかりにくい場所であった。「魂の気水域の海の家」とここではいっておこう。