All the young dudes Carry the news

ある本のプロジェクトで、建築家のHさんのお話をうかがってきた。主題に関しては、改めて書くことにして、雑談の中で聞くことができた印象的なお話を。「クロアチアの建築家たちが、これから出てくるのではないでしょうか」という話。彼の土地で建築に関するシンポジウムがあると、建築学科の学生や若い建築家がどっと集まるという。クロアチアの文化ルートはウィーンと強く関係しており、そのラインの中でかなりよい建築の勉強をしていて優秀であるとのこと。シンポジウム会場で情熱的に聞き問いかけもするその観客の半分以上が女性であること。クロアチア、さらにリトアニアなどの学生がHさんの事務所で働けないかと連絡をよこすこと。ああ、世の中そうなってるのだな。


その事務所を出てお茶の水のdisk unionでCDを買って神田方面へ。このところ、この地域に行くと必ずいく神田駅近くのカフェデロンギへ。なんてことはないカフェである。しかし、通ってしまう。イタリアのヒーターとかエスプレッソメーカー、アイロンなどを作っている会社が出している小さな店。昼間からワインやグラッパが軽く飲めるのがいいのと、四季おりおりの街の変化と店の変化を見ておきたいと思わせるところがある。微妙ですよ、とても少しね。


批評家の粉川哲夫氏はWEBで映画に関するコラムを発表している。その文章のひとつで試写室に行くか帰りかの描写で、この店がさらっと書かれていたのだ。テクストを読む身体というのは正直で、粉川氏の映画評を読んで実際に映画館に行ったことがないが、店のことが書かれてあると、すぐに反応した。ちょっとした…1行くらいだったのに、次の日にはカフェデロンギにいっていた。街歩きの人間として粉川さんのこと、好きなのだな、やっぱり。すぐ近くには昭和6年完成の美しい丸石ビル(昭和初期にはゼネラルモータースのショールームやビクターの録音スタジオもあった昭和前期最先端ビル)もあるし、散歩の休み所としてもいいんではないのだろうか。角の煙草屋みたいなカフェ。今はそれほどぱっとしないが、時間がたつとどんどんよくなる気がする。


カフェデロンギチェコの写真について考える。
チェコの写真家Veronika zapletalovaと久しぶりに、一緒の仕事が始まったのである。
彼女の作品。チェコの独特な小屋文化に関する作品がある。この日記でもとりあげたので読んでいただきたい。
id:hi-ro:20040331
ドイツを含めて中央ヨーロッパには、興味深い別荘の世界があり、特に社会主義だった国ではチェコだけでなくとも、かなり独自な小屋文化があるようなのだ。
Veronika zapletalovaには、小屋をめぐるインスタレーション作品があり、これはギャラリーですぐに展示ができる。ギャラリーなどでそのインスタレーションをしてみたいと思った方がいれば、コーディネートします。よろしく。


家に帰って、買ってきたCD,モット・ザ・フープルの『すべての若き野郎ども』の「すべての若き野郎ども」を大音響で聞く。何度も何度も聞く。


先日、車を運転しながらラジオを聞いていると、この曲が流れてきた。実は、流れた曲、このヴァージョンではなくて、ライブで、多分作者のデヴィッド・ボウイではないかな、彼がどうも歌っているらしい。もしからしたらボウイではないのかもしれないが、それにしても作者の作ったときのヴィジョンが明確に出ていたからである。ある時期、ボウイが強く影響を受けたディランのような歌い方で「すべての若き野郎ども」を歌っていたのである。


これはしっかり聞かなければいけないと思い、思わず道に車を停めて聞きいったのだ。そのボウイ/イアン・ハンターの声は、まるで「ローリング・サンダー・レビュー」のディランのように激しい。「すべての若き野郎どもは、いつでも新しいことを運び込んでくる すべての若き野郎どもは、新しいことを知っているんだ」というコーラスをバックに「俺はおまえと話したいんだ 俺はおまえと会いたいんだよ」といい募っていくところがサビの部分。他はみじめな日常が歌われていくこの世界は、ある種の憤怒の気持ちをもって激しく歌えば歌う程、泣けるのではないか。そうだ、そうなのだと考えていると、音楽は終わり、ラジオは次の展開になってしまった。窓から外をみれば、新興住宅地の昼下がり、なんだかひとり赤面し、ペナペナの車をスタートさせたのだった。


あれはなんのライヴなのであろう? できればしっている人教えてくださいな。昨日は
disk unionにいったのだが、やっぱりよくわからず、実に安価なモット・ザ・フープルのCDがあったので買ってしまったのである。


たぬきやアライグマが生息する林をバックの一軒家で、大音響で私のような者が、「すべての若き野郎ども」を聞き歌う姿は、なんだか、しりあがり寿のマンガのようだな。……ああ。しかし、彼のマンガの醜さに美しさが光るところがあるように、昨日の夜は、クロアチアの若き建築家、イタリアの若きアイロン作り(?)、チェコの若きカメラマン、そしてイギリスのかつての若き音楽家たちと、All the young dudes Carry the news とみんなでコーラスを歌っているような高揚感に突如襲われ……、多分インフルエンザがまだ残っていたんですね、ああ、楽しかった。