紫外線/TAZ/フリーフード/VOL

久しぶりに批評家の粉川哲夫さんにお会いした。
海の家の話をしたら、ニュージーランドにて、紫外線でそうとう酷いめにあったらしく、紫外線のことはもっと注意した方がいいという。確かに海辺で紫外線問題は、もっともっと注意すべきことなんだろうが、この人のスペース認識はおもしろい。ラジオアクティヴィストの粉川さんにとって、海辺は、海水が波となって砂浜に押し寄せ太陽が光り輝き水着の男女がくつろぐ空間ではなく、そこは宇宙からやってくる電磁波に満たされた空間であり、その電磁波のひとつに傷つく身体がある空間なんだ。


「海の家に来て下さいよ」というと、「僕は嫌だ」という。
新宿であったのだが、雑踏の中で、その一言をいう地球規模の視点でビーチをスキャンしているこの人の風情の新しさ。
「海辺に漂着した機械部品で構成された紫外線シェルター海の家に、ご招待しますから」といったが、私のはちょっと古いSFだ。


私が『海の家スタディーズ』で触れている文化ムーブメントについては、TAZ(TEMPORARY AUTONOMOUS ZONE=一時的自律ゾーン)というところで、やはり反応してくる。それからイタリアで行なわれているテレビの受信機を送信機に変えて路上をテレビ電波を使って一時的に占有するテレストリートの話になって、アウトノミア系のある部分が政治活動から離れて表現の方へ向かっていった話となり、ラジオアートの話になるのだった。電波を使った表現は世界各地で、ノイズミュージックの規模くらいに盛んに行なわれてはいるらしい。


天ぷら屋に入り天ぷらを食べる。粉川さんはラジオアートで世界のいくつかの都市を動いているらしいが、それぞれインデペンデントな活動をしている人たちは、各都市でとってもおいしい料理を食べているという。私もオルタナティブ音楽のネットワークを使って世界中を動いているミュージシャンのブログなどを読んでいて、オルタナティブ・ネットワークの結節点には、よい料理があるんだなあ思っていたので、ふむふむと天ぷらを食べる。そして私は「僕が料理研究家なら、ただで料理を食べさせる仕組みを考えて、書きあげた料理本で稼ぐ料理研究家になるんだけどな」と、このごろ考えていることをいう。実はロックの歴史に於いてフリーコンサートというのは、その発展の起爆剤になったのだと私は思っているのだけれど、このごろの料理研究家の活躍を見ていると、そろそろ「無料の料理の力」を見せる時代が来ていいでしょ、と思っていたのだ(テレビの料理番組は、無料料理の前段階だと思っています)。スローフードよりもフリーフードの方がやっぱり起爆剤になるのだと思っていたので、こう話すと、粉川さんは「FREE RADIO IS FREE CHARGE」の考えで、カナダやニュージーランドの都市や京都でラジオ送信機を製作するワークショップをやっていて、部品なんかほとんどお金をとらないよ、なんて話す。そして、私に天ぷら定食をおごってくださりました。


それからゴールデン街の「ジャコバン」へ。ここに集まってくる人たちが出している雑誌「VOL」(以文社)を見る。前に読んでものすごく面白かった『映画/革命』(足立正生との共著 河出書房新社)を書いた平沢剛さんや粉川さんも書いている「理論と実践を横断する思想誌」とのことだ。
ここでもまあ、ぼそりぼそりと話をしたのだが、それはカットして、私は紫外線満ちあふれる海辺の街へ帰っていったのだった。