カーブを曲がって漁村へ、地平をはがして魯文へ

hi-ro2006-11-08


先週は若狭の漁村をめぐる取材旅行をしてきた。
道が右にカーブしていく写真と、そことはまったく異なる道路の左カーブの写真を並べた見開きページが続く写真集『R』(冬青社)。その本を最近出版したばかりの写真家、中里和人さんらとの旅。


断崖絶壁。曲がりくねった山道を車で昇りきると、小さな漁村がある。300年間7世帯を守っている集落だった。港まではそこから長い階段を降りていく。湖のような静かな海だ。目指すスペースに向かって漁船を出してもらう。船から写真を撮る。漁師の方々からお話を聞く。そんな繰り返しの日々。


中里さんは曲がり角で急に車を停める。撮影。石を瓶に入れたり。同時にプロジェクトが進行している日常。やはり平行世界が永続的に展開されている人であった。


さらに今週は新潟と石川県の漁村を数カ所行く予定。


そうだ、旅に出る前にいった国文学研究資料館の「仮名垣魯文百覧会」が楽しかった。江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した戯作者である仮名垣魯文。『東海道中膝栗毛』のパロディー『西洋道中膝栗毛』は、弥次喜多の孫が西欧を旅するといった調子である。また安政2年に起きた江戸の大地震、その震災後のルポルタージュを行なっている。興味深かったのは戯作者である魯文がハンセン病治療の啓蒙普及と患者の救済支援活動をしていることである。このような仕事をした魯文の著作を集めた展示会だった。江戸文化が濃厚な出版物、その斬新なビジュアル処理を続けて見ていくと、声が聞こえてくる。今の本のデザイナーや編集者が立つ路上の敷石をはがせば、すぐにこのような世界が広がっているのだというメッセージ。無料で配られた相当な資料になるリーフレット含めて企画者に感謝したい。
戸越にある国文学研究資料館、テラスからは亀が泳いでいる池が見え、水辺のスペースとしても楽しめるところだった。
図版は、そこで売られていた絵葉書(仮名垣魯文作『格蘭氏伝倭文賞』三編表紙)より。