写真を持って歩く/スープとバウハウス

チェコの某作家図録製作の仕事は、あるところで落ち着いた。
後は確実に着々と実行するだけである。ポートレート使用のため、額縁入り写真を借りて、東京・渋谷の歓楽街を歩く。その1週間前は亡父の法事のため、遺影をもって東京を歩いた。原告団の中に遺影を抱く者の姿、テレビのニュースや新聞写真で何度も見てきたが、その方々の気持がぐっとわかった。写真という徹底的に見られる物体は、抱きかかえると、自分の身体で裏返り、徹底的に「視るもの」になる。鬼太郎のトーチャンは、第二次世界大戦の中で夥しく生まれた遺影を、仏壇から持ち出し抱きかかえた時に生じた戦後そのものの目ん玉だ。私も私の家族史そのものの父の目とともに中央線からの飛び去る景色を見たし、彼の国の圧政の歴史を抱えた作家の目ん玉で渋谷風俗街の街並を見る。今朝、届いたその作家の展覧会の冒頭メッセージは「現実原則は外に追い出した。さあ、瞳を閉じて足を踏み入れるがよい」であった。


「あなたのために−−−いのちを支えるスープ」(文化出版局)という本をやっと手に入れた。料理家・辰巳芳子氏が書いたみそ汁やポタージュの作り方を教えてくれる本。手にいれた理由は表紙だ。バウハウスに関わる作家が描いた絵が使われている。色彩が分析され、ある法則をもって並べられたチャートのような絵画だ。
「もう長いこと、料理は図式化できると考えていた。特にスープはすでにぴったりと図式化できていた。色は食材、並列は技法、それらのおのずからなる融合の美は、味というものの行き着くところに結びついた」と80代の辰巳氏は書いている。
バウハウスとみそ汁とスープが出会っていること。このことの深い意味は、私なんかには、すぐにわからない。だから一番出汁の出し方やタマネギをグラッセする方法などを学びながら、この出会いについてわかりたいと思って、この本を買ったんだ。


そうそう、「舟小屋展」は、7月24日から8月18日まで開催されます。INAX:GINZAの7階、クリエィティブスペース。この展覧会のためのパンフレットで紀行文書いています。祖父江慎さんデザインの楽しい本。京橋の近くでも通りかかったら、ぜひぜひ。そして本も手にとってみて下さい。


海の家、始まりましたね〜!